2012年4月14日土曜日

Webマガジン幻冬舎


 新型核兵器開発の闇を抉り出した「メルト・ダウン」で1994年に第1回小説現代推理新人賞を受賞して以来、精力的に執筆を続けてきた高嶋哲夫さん。『ミッドナイトイーグル』ではステルス戦闘機の墜落を、『M8(エムエイト)』では東京を襲う大地震を描くなど、長編サスペンス作品を中心に上梓し、話題を呼んできた。
 そんな高嶋さんが初めて挑んだ歴史エンターテインメント小説が『乱神』だ。舞台は13世紀後半の日本。十字軍に参加したイギリスの騎士たち一行が九州の浜辺に流れ着き、当時の執権・北条時宗と手を組んで蒙古を迎え撃つ……。「元寇」に揺れる日本に十字軍の騎士が現れるという発想はどこから生まれたのか? 高嶋哲夫さんに話を聞いてみた。
 高嶋さん自身、時代、歴史小説をあまり読んでこ� ��かったというだけに、勉強に勉強を重ねて執筆した。このジャンルが好きな読者はもちろん、そうではない人も楽しめる作品に仕上がっている。

──初めて時代、歴史小説を書いた理由は?


プロバンスからジャキュースカルティエでしたか?

 ある時、何かの拍子に、ゆったりと続く白い砂浜を夕陽に向かって走っていく数十騎の騎馬隊の後ろ姿が浮かびました。陽に輝く甲冑、はためく軍旗。
 そして、その騎馬隊は次第に小さくなり、光の中に溶けていきます。絵になるなあ。
「よし、歴史小説を書こう」
 そう思ったのが、二年近く前の話です。
 場所は? 西洋はよく知らない。時代は? 江戸、戦国は山ほど書かれている。となると……。で、こういう形になったわけです。
 が、しかし、僕は理系出身。入試で社会は「地理」を取りました。理系は「物理」「化学」と社会一科目でよかったのです。「日本史」「世界史」は、ほぼ中学生で止まっ� �います。困ったなあと、ほぼ一年半、勉強しました。
 というわけで、とんでもないことが書いてあるかも知れません(笑)。その時は、ゴメンナサイ。
 歴史を覆そうなどと大それたことを考えているわけではありません。単なる無知からです。

──そんな高嶋さんがこの作品を書いてみて、知ったことはなんですか?


アメリカ人はイギリス嫌い理由

「七百年以上前も、現代も、人というものは変わっていないなあ」
『乱神』を書き始めて、つくづく思ったことです。神、つまり宗教の対立、国家の対立、人の対立。憎みあい、殺しあう。また、愛し合い、慈しみ合う。昔も今も、同じです。
 これは、「人の定め」なのでしょう。そして、苦しむのは常に、女性、子供、農民、町民たち……。弱き者たちです。
 でも、歴史を作った人たちって、歴史上に名前が残り、教科書に載っている人たちばかりではないはずです。そういう人たちのことが書ければいいなあと思い始めました。
 執筆にあたり、歴史音痴の僕が色々調べていると、色んな疑問と驚きが出てきました。
 人は何のために戦� ��、何のために死んでいくのだろう? 平安時代、鎌倉時代、貴族や武士は本、映画で取り上げられているけれど、一般の人はどんな意識を持って生きていたんだろう? 西洋の騎士と日本の武士は、どっちが強かったんだろう? 「元寇」で、武士たちは何のために戦ったんだろう? 日本を支えてきたのは、どんな人たちなんだろう?
 歴史とは、単に教科書に書かれていたことだけじゃない、ということにやはり気がつきました。高校時代、もっと勉強しておけばよかったと思うこのごろです(笑)。

──取材をして、たくさんの資料を読み込んで書くのが高嶋さんのスタイルだと思いますが、今回はどうだったんですか?


シルビアウィンターは誰ですか?

 すごく多くの人に助けてもらいました。余りに資料が多すぎて、僕一人では短時間では読みきれませんでした。要点をまとめてもらったり、疑問に答えてもらったり、友人一同の総力戦でした。本当は、博多にも取材に行くつもりで、一年も前に福岡の友人に「そのときはよろしく」とお願いしていたのですが、何かバタバタしていて、結局は地図と写真と睨めっこになってしまいました。僕の悪いくせです(笑)。今後は、きっちり計画を立ててやっていきたいと思いますが……。
 歴史の本を読んでいていちばん強く思ったのは、色んな解釈があるということです。理系の僕にとっては、面白い経験でした。「事実は一つ」的な感覚が強かったんですが、� ��々な説があるのに驚きました。
 小学生の頃、「日蓮」の映画を見たんです。そのなかで、岩の上で必死で拝む上人の姿が印象的でした。以来、「蒙古の軍勢を退けたのは神風」と信じてきました。教科書にも、そう書いてあったような気もします。でもそれって、どうも嘘っぽい。今回、調べていてわかりました。少なくとも文永の役では、大きな嵐は来ていないらしい。だから色んな資料を読んで、自分なりの解釈をして生まれたのが『乱神』です。それが事実かどうかは、読者の判断にゆだねる。僕の解釈は間違っているかもしれないけど……。

──そうした過程で苦労した点はなんですか?


 やはり、時代考証です。僕は初め、「現代の言葉で」「現代の感覚で」書こうと思っていました。どうせ僕には、本格的な歴史小説は書けないと思っていたのです。でも、書き始めるとやはり、それではムリがあると思いました。
 僕か書きたいのは、その時代に生きた人の精神ですが、未熟ながら少しでも読者に伝わるためには、やはり最小限その時代の人の言葉は必要だと途中から思い始めました。で、時代小説をたくさん読んでいる友人の力を借りました
 おそらく専門家から見れば、おかしなところが多々あるに違いありません。そのときは、ゴメンナサイ。僕らが当然だと思っているものでも、当時は不釣合いなものもたくさんあり、友人から指摘が入りました。
 例� ��ば、
「彼らは馬車に荷物を積んだ」→当時は馬車はないみたいだよ。
「彼は風呂に案内された」→風呂ができたのはもっと後らしいです。
 といった具合です。
 さらに、十字軍という言葉は何となくロマンチックですが、ごろつきの集まりも多かったとか、当時はサラセン人が科学技術の分野では秀でていたとか。僕にとっては、新しい発見ばかりでした。

──最後に読者へのメッセージをお願い致します。


「歴史小説」を、実は僕に書けるとは思っていませんでした。繰り返しになりますが、多くの人たちに助けてもらいながら、やっと出来上がりました。しんどかった。「本」は、作家一人の力で出来上がるものではないということを改めて実感。本当に色々とお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございます。
 多くの人間が結集してうまれたこの作品を、是非とも多くの方に読んでほしいです!



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